スカイ改め、新生イネオス始動。億万長者オーナーの素顔に迫る。
Photo by Foreign and Commonwealth Office on Flickr

旧スカイの新スポンサーINEOSのCEO、 ジム・ラットクリフ。2018年時点での資産は約2兆円で、イギリスNo.1の資産家なのですが、彼がCEOを務め、自らが60%の株式を保有するINEOSは6.4兆円の年間売上高を誇り、従業員は22カ国に18500人いる大企業です。一方で、あまり表には出てこずメディアには”Publicity Shy(人前に出るのが苦手)”とも言われるこの男(その割にはヨークシャーでは結構表に出てきましたが)。スポンサーがどんな会社か?はスポーツの本質ではないですが、興味本位で足跡をたどってみました。

化学エンジニア、MBAをとって投資を始める。

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1952年にイギリスで生まれたラットクリフは、バーミンガム大学で化学工学を専攻し、ESSOにて化学エンジニアとしてキャリアをスタートした後、ロンドン・ビジネス・スクールにてMBAを取得。マネジメントとファイナンスについて学びます。それから数年後の1989年、ラットクリフはアメリカに拠点を持つプライベート・エクイティファンド(※)Advent Internationalに加入します。

※プライベート・エクイティ・ファンド:複数の投資家から集めた資金を元に、将来有望な新興企業や再建途上の企業などの未公開株を取得し、同時にその経営に深く関与して、企業価値を高めたあとに売却することで利益を得る会社

雇われ経営者、オーナーになる。

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1992年。ファンドJohn Hollowoodに転籍したラットクリフは、BPの化学部門に対してBuy In(企業買収と同時に、外部から経営陣を招き入れて経営再建を行う手法のこと)を仕掛けるプロジェクトを始動。そのためにInspecという名前の組織を設立します。

既に40歳になっていた。私のキャリアパスの中で、とても重要な分かれ道に立っていた。もし上手く行かなければ私は全てのお金を失い、キャリアもめちゃくちゃになっていただろう

1995年。プロジェクトは進展を迎え、InspecはBPの酸化エチレン事業およびグライコールl事業を7800万ポンド(110億円)で買いとったラットクリフは、経営の一角を占めるようになります。更に3年後、1998年には、ベルギーのアントワープにある酸化エチレン工場を8400万ポンド(120億円)でBuy out(少数株主である経営陣や従業員が、金融機関の力を借りるなどして自社の株式を買い取り、企業の経営支配権を得る方法のこと)。その工場経営のために、INEOSを会社として立ち上げます。

要するに、業績が悪化していたBPの化学部門の経営に、よそ者ラットクリフが助っ人として参入。そのうちの一つの工場の経営をするために、まるごと買い取ったということ。工場をまるごと買い取ったから、どうしても会社が必要になった。それがINEOS(イネオス)。同時にラットクリフは「雇われ経営者」から「オーナー経営者」となり、独立したわけです。

大企業から、いらない事業を買い漁る。

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INEOS創業後も、ラットクリフはハイイールド債(高利回りの債券のこと。一般的に信用格付が低く、元本割れが発生するリスクが高い分、利回りは高く設定されている)を用いて、ICIやBPといった大企業が手放したがっている事業を買っていきます。その基準は、「5年以内に収入が2倍になるポテンシャルをもっていること。」その後も事業の買収を続けたラットクリフは、創業から8年後の2006年、再び大きな動きをみせます。BPから石油精製・化学製品部門のInnoveを90億ドル(1兆円)で買収し、スコットランド、イタリア、ドイツ、フランス、ベルギー、カナダの石油精製工場を手に入れたのです。この結果、INEOSの名は、世界に知られるようになります。

2008年からは世界不況により業績が落ち込み、2010年には税金対策のためイギリスからスイスに本社を移したINEOS。ライバル企業が倒産していくなか、それでも中国のPetrochinaや化学企業BASFとの合弁事業などにより生きながらえます。2014年にはイギリス国内ではじめてシェールガス事業に参入。環境保護活動家とすったもんだを繰り広げます。2015年には本社を再度イギリスに移転し、最近も新しい取り組みについて次々と発表。2019年2月には、イギリスの石油ガス化学業界に対して、北海石油ガス開発の大動脈・Fortiesパイプラインのオーバーホール事業を含む10億ポンド(1500億円)の投資を発表。

事業拡大はとどまることを知りません。

スポーツへの愛。

資産が最近になって急増したラットクリフは、次々とスポーツへお金をつぎ込んでいるようです。愛なのか、戦略なのかはわかりませんが、明確な意志とともに次々と資金を投入しています。

2017年、スイス・スーパーリーグの強豪チーム、FC Lausanne-Sportのオーナーに。

2018年、セーリングのチームIneos Team UKとパートナー提携。1.1億ポンド(160億円)を投資。豪華ヨットを所有しており、セーリング好きとして知られます。

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2019年、チーム・スカイを引き継ぐ。
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もともと運動や旅行好きで、60歳の誕生日に南アフリカで90kmウルトラマラソンに参加したり、北極や南極へ旅行するアクティブな一面をもっているようです。

最後に

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INEOSの株価は去年のピーク時から50%くらい落ちていて、株主であるラットクリフの資産は減っており現時点ではイギリスNo.1の金持ちではない模様です。Forbesによれば、昨年3月から今年3月までにかけて総資産は1.8兆円から1.3兆円に減っています。その額しめて5000億円。スカイ/イネオスの年間予算(50億円)の100年分が、1年で吹っ飛んでいることになるのです。ラットクリフの総資産は2017年から1年で8000億円増えてる(1兆円⇨1.8兆円)ので、このくらいの振り幅はそこまで特筆すべきことでもないとはいえ、これが日常なら、彼にとって自転車チームの予算出すことなんて、私達がiPhoneを買うような感覚なのかもしれません。

参考ソース

 

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