バージニア工科大学ヘルメット番付の信頼性は?Verginia Tech Helmet Ratings解説。
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Verginia Tech Helmet Ratings(VTHR)、バージニア工科大学ヘルメット番付について概説します。本当に参考になるスコアなのか、という目線でまとめました。

なぜ注目されるのか?

まず大前提として、真っ当なメーカーから販売されている全てのヘルメットは、各国・各地域にて規定された最低限の安全基準を満たしています。もしかしたらそれで十分なのかもしれません。しかし、その判定結果はあくまで「合格か不合格か」であり、さらに市場に出回る真っ当な商品はすべからく「合格」なものですから、消費者としては各商品の差がよくわからないままだったのです。

かろうじて言及される安全性能の差といえば、主に「当社比」という主観的な目線、もしくは「A社・B社比(競合他社比)」という恣意的な目線にとどまっていました。このぼんやりとした輪郭をはっきりさせよう、という試みがVirginia Tech Helmet Ratings。バージニア工科大学が独立機関として試験を改めて実施することで、各メーカー・各モデルのパフォーマンスが数値化され、相対的な性能差が明らかになりました。

なおバージニア工科大学が初めに取り組んだスポーツはアメリカンフットボールで、のちに自転車やスケート、馬術など、より広範囲に応用するようになったそうです。

どのようなテストを行うのか?

バージニア工科大学はSummation of Tests for the Analysis of Risk(STAR)という手法を採用していますが、そのコンセプトは「あらゆる落車パターンにおいて、頭部への衝撃をより大きく減らすヘルメットがより安全である。なお特によくある落車パターンを重視する」というシンプルなものです。

原文ママで忠実に表現すると、、

1:アスリートが経験する可能性のあるあらゆる頭部衝撃について、各々の頻度に基づいた重みづけをする。

2:頭部が衝突した際の直線加速度・回転加速度をより大きく減退させるヘルメットが、より大きく怪我のリスクを下げるとする。

ということになります。ヘルメット損傷の再現研究に基づき、6か所について2種類の衝撃試験を行い、各試験でのピーク直線加速度と回転速度を測定しています。STARスコアをより具体的に表したのが以下の計算式。

ここで関数Eは予想される落車頻度(The predicted exposure)を表し、その変数Lは各衝撃箇所(Each impact location)、Vは速度(velocity) です。

Lは下図に示される6か所。

Vは4.8m/sと7.3m/sの2パターン。

全てあわせると6か所×2パターン=12パターンが試験されるわけですが、それぞれの重みづけはLocation毎には変わらないという想定です。そして同じLocationであれば、4.8m/sの重みづけは7.3m/sの約4倍としています。

つづいて関数Rは、脳震盪リスク(concussion risk)を表します。その変数aは実験結果による平均ピーク線形加速度(average peak resultant linear acceleration)、変数𝜔は実験結果による回転速度変化(average peak resultant change in rotational velocity)です。この関数は上述12パターンの試験結果ごとに計算されているのですが、ここでいう変数a、変数𝜔の「平均」は2回のトライアルの平均という意味です。

STARスコアは関数E、関数Rの掛け合わせであり、EとRそれぞれが大きいほどSTARスコアも大きくなります。ですからEとRが小さいほど、つまりSTARスコアが小さいほど性能が高いということになります。

現在ランク上位のヘルメット


2023年版にて、全198モデルのヘルメットの中から1位にランクされたのはGiro Aries Sphericalでした。Giroが2023年に新発売したこのモデルのスコアは8.4です。

続く2位はSweet Protection Falconer 2Vi MIPS(スコア8.45)という聞きなれないメーカーのヘルメット、3位はSpecialized のMTB用ヘルメットTactic 4(スコア8.55)でした。

各社の対応


この番付が公表されたことで、モデルチェンジによりスコアアップを果たしたメーカーが沢山現れ、同時に5つ星評価であることをPRするメーカーや小売店も出てきました。

例えばSpecializedのPrevail。旧モデルPrevail2のスコアは14.84と低く、安全機構MIPSを採用したPrevail2 MIPSのスコアも12.65にとどまっていたのに対し、最新モデルPrevail3のスコアは全体4位8.64と急上昇しています。同じように、LazerもかつてフラッグシップモデルだったZ1 MIPSのスコアが12.16である一方、最新モデルのG1のスコアは全体11位9.23と着実な進歩を遂げており、テストで低スコアが発表されてしまったメーカーの努力が窺えます。コンセプトのみならず、スコア算出に用いられる試験手法についても詳細に公開されていますから、バージニア工科大学同様の試験器具をつくり、それらを用いた実験結果を基に設計をやり直したのかもしれません。

一方で、そもそもリストアップされていないメーカーもまだまだあります。有名なところで言えばOGKカブト、ABUS、HJCなど。どのようにメーカーとモデルが選別されたのかは不明ですが、今後はより網羅的なデータベースに成長していくといいですね。

番付スコアと「あなたが次に経験する落車」

安全性の定量化によって、「最も安全なヘルメットは何か」という問いに正解が出たように感じたかもしれません。しかし、あらゆる番付スコアがそうであるように、STARスコア算出方法にもいくつかの限界があります。

まず、「1:アスリートが経験する可能性のあるあらゆる頭部衝撃について、各々の頻度に基づいた重みづけをする」について。

過去に発生した数多くの落車データ(ヘルメット損傷の再現研究)に基づいた重みづけというものが「あなたにとって」何を意味するか考えてみると、実はほとんど意味がないことに気が付きます。沢山のデータが最初にそこにあるから傾向が分かるのであって、ひとつひとつのデータ、つまり「あなたが次に経験する落車」がその傾向に影響を受けているわけではないのです。

つぎに、「2:頭部が衝突した際の直線加速度・回転加速度をより大きく減退させるヘルメットが、より大きく怪我のリスクを下げるとする」について考えてみます。

試験に用いられるヘルメットは総じて新品です。しかしながら、ヘルメットの実際のパフォーマンスは、これまでのダメージの有無やメンテナンス状況、製造過程で生まれる個体差など、様々な要因によって左右されます。ですから、新品の段階での性能評価が高かったとしても、必ずしもその性能が100%発揮されるとは限りません。

ヘルメットと各種保護具の限界について

そしてさらに大事なことですが、どんなに優れたヘルメットでも、脳震盪をはじめとする怪我を完全に防ぐことはできません。

ヘルメットをはじめとする保護具は人が身につけても「動ける」ということを前提に作られますから、その重さ・大きさ・可動域などについて限界があり、これはリスク低減量の限界をも意味します。事故を防ぐための対策ひとつひとつを壁と捉えるならば、あらゆる壁がすべて突破されてしまった絶望的な状況(既に事故が発生してしまった状況)でなお、最後の最後に辛うじて残る頼りなくて薄い壁、それが「保護具の着用」なのです。

ですから、安全重視ルールへの変更やその正しい理解と運用、加えてマインドセットや技術といった土台があってこそ、初めて保護具が最終手段としての効果を発揮するといえるでしょう。

参考

BICYCLE HELMET RATINGS 2023 edition | VIRGINIA TECH HELMET RATINGS

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