「生まれながらの勝者」マチュー・ファンデルプールはサガンを超える逸材かもしれない
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「今シーズン1番のラスト1km」との呼び声高いアムステル・ゴールドレースの逆転劇。

マチュー・ファンデルプールについてまとめました。

シクロクロスを見てない人からしたら「だれ?」という感じかもしれないこの男。紛れもなく、正真正銘のスーパースターなんです。

身長1.84m、体重75kg、FTP400W。年齢は24歳。

ベルギーに生まれ育った、オランダ国籍の若きサラブレッドの秘密を探るため1年前のCyclingTipsの記事をもとに書いてみました。

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若きファンデルプールのある1週間。

ファンデルプールの強さを物語る語りぐさがある。

今から2年前、2017年5月のある1週間のこと。

5月21日(日)、チェコで開催されたUCI XCO世界選手権に出場し、90番手からスタートして8位まで番手をあげてフィニッシュ。出走番手が最終順位に大きく影響するMTBのレースにおいて、これは目を見張るリザルトである。

5月24日(木)、ベルギーのUCI 2.HCクラスのステージレース、Belgium Tourに出場。第2ステージでは逃げを成功させ、ジルベールを破って優勝。その後XCOワールドカップ出場のためBelgium Tourを途中で去ったマチューはドイツに向かう。
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5月28日(日)、ドイツで行われたXCOワールドカップにてMTB界の絶対王者ニノ・シューターに次ぐ2位。ニノ・シューターをして「ファンデルプールとレースをしたのは初めてだったが、本当に難しい相手だった」と言わしめたのだ。ちなみに2017年シーズンのXCOワールドカップシリーズ全6戦その全てをニノ・シューターは手中に収めている。

そして忘れてはいけないのは、マチュー・ファンデルプールはこのときまだ22歳だったということだ。

しかも、MTBもロードレースも専門ではなかった。あくまで当時の専門はシクロクロスだったのだ。

サラブレッド一家の「生まれながらの勝者」

あまり知られていないかもしれないが、マチュー・ファンデルプールは自転車一家に生まれている。

サラブレッドなのである。

父アドリ・ファンデルプールは、ロンド、リエージュ~バストーニュ~リエージュ、アムステル・ゴールドレース、クラシカサンセバスチャンといった大きなクラシックレースを制したことがある一流のロードレーサーだった。世界選手権ロードでも銀メダルを獲得しており、キャリア後半にはシクロクロスにも挑戦し1996年には世界チャンピオンになっている。

一家の系譜はそれだけでは終わらない。

祖父はなんと、フランスの伝説的自転車選手レイモンド・プリドール。

ヴェルタ総合優勝の経験を持ち、ツールでは8回表彰台に登っている。ミラノ〜サンレモやフレシュ・ワロンヌでも勝利。世界選手権でも表彰台に4度登ったものの、遂に一度もマイヨ・ジョーヌもアルカンシェルも着ることができなかった。つけられたあだ名は「永遠の2番手(Eternal Second)」
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プリドールの妻は娘2人に「自転車選手とは絶対に結婚するな」とアドバイスしていたが、そのうちの一人Corinneはナイトクラブでアドリに出会い、お互い一目惚れで付き合うことになる。「自転車選手とは知らなかった」らしい。

そして2人は2年後に結婚。

そこで生まれたのが兄デービッド、弟マチューなのである。

ヴァンデルポール兄弟の最強伝説

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(今でも兄弟で表彰台に乗ることもある。右が兄デービッド。中央がマシュー。)

自転車一家に生まれたファンデルプール兄弟はシクロクロス界を席巻。

兄デイビッドは2009-2010シーズンに30レースを走って25勝。ジュニアワールドカップシリーズの年間王者に輝く。

2016年の世界選手権では6位でフィニッシュしており、今も最前線でレース活動を続ける兄は若い頃から弟の才能に気づいていた。

マチューは2012-2013シーズンのジュニアワールドカップシリーズで32レースを走ってその全てに勝利。2012年・2013年に2年連続でシクロクロスのジュニア世界選手権優勝、2013年にはロードのジュニア世界選手権も手中に収めたのである。
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(ロード世界選手権でも優勝)

“Mathieu had all the skills, everything was a big playground for him,” David told NRC Handelsblad last year. “He was more daring, he was more graceful, and he could always climb faster than me.”

(拙訳)マチューは全てのスキルを兼ね備えていた。全部が彼にとっては遊び場だったんだ。彼は僕より大胆で、優雅で、そしていつも僕より速く上りを駆け上っていた。

マチューはその後もスターダムを駆け上り、2015年には若干20歳でエリートのシクロクロス世界選手権を制し、今年2019年には2度目のタイトルを手にしている。

最強の女王、マリアンヌ・フォスも認めた天性のテクニック

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マチュー・ファンデルプールが凄いのは、サラブレッド一家のエンジンだけじゃなく、そのスキルとテクニックにある。

バランス、リズム、空間把握能力。

世界で最も成功した女子自転車選手であるマリアンヌ・フォス(ボス、ヴォスとも。ロード/トラック/シクロクロス全ての世界王者)はマチューのスキルについてこう語る。

“[Bike handling] is also in the genes, I think,” Vos said. “You have to have the feeling for it, and Mathieu picks it up quite easily. But I wouldn’t say it’s easy for him. He trains a lot. He puts a lot of effort in it. He really lives for cycling. It’s also a hard job for him, but you can see, he enjoys it. And he learns these skills very, very quickly.”

(拙訳)彼のハンドリングスキルにも、おそらく遺伝的な要素が少なからずあると思う。マチューはどうすればうまく自転車をさばけるのか、いとも簡単に理解することができるから。でも彼はどんなことも簡単だなんて思っていないはず。トレーニングも努力も人一倍してるから。自転車一家に生まれて、自転車選手として生きていくことは大変なことかもしれない。でも、マチューは自転車が大好きで、その生活を楽しんでいる。

マチューは強い。父よりも。祖父である私よりも。

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そしてレジェンドである祖父も、その才能に太鼓判を押した。

「Who else is doing it like him? He’s unstoppable(他の誰が彼みたいに自転車にのる?誰にも止められないんだ)」

“Here is my little phenom,” Poulidor beamed. “Maybe a future Tour winner? He’s already a three-time world champion. His talent is enormous. Everyone is amazed, including his grandfather. He’s stronger than papi [grandfather] and stronger than papa [father]. He’s an extraordinary character. He rides a bike with pleasure and he has huge ambition. Who else is doing it like him? He’s unstoppable.”

(拙訳)これが私の小さな天才だ。もしかしたら未来のツール勝者かな?もうすでに世界タイトルを3つも取っているんだから、才能は計り知れないよ。みんなが驚いている。私も含めてね。彼は祖父である私よりも、父よりも強い。大きな野望をもって、喜びとともに自転車で駆ける。他の誰が彼のように自転車に乗るだろう?彼は誰にも止められないよ。

スターの必須条件 ”ショーマンシップ”

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マチューはそのショーマンシップと華麗なパフォーマンスでも知られている。

バニーホップ、テールウィップ、ウィリー…。

そのパフォーマンスは彼のプロフェッショナリズムを表現しており、そして同時に全身で喜びを表現しながら自転車を操る一人の若者としての一面でもある。

“It’s not really for the crowds, I think it’s mostly for myself,” he explained. “It’s something I do in training as well, it’s something I enjoy doing. It’s just my style of riding.”

(拙訳)観客のためじゃなくて、僕自身のためにやってるんだ。楽しいからトレーニング中にもやってる。これが僕のスタイルってだけだ

マチュー・ファンデルプールはオランダ語はもちろん、フランス語や英語も堪能で、SNSには3言語で投稿しており10万人以上のフォロワーがいる。

そして、オランダ国旗を背負って走っているにもかかわらず、マチューが生まれ育ったベルギーでは彼の人気は上昇中だ。

マチューが圧倒的な差で最終ラップを刻むとベルギー人の観客から大きな拍手と歓声がわく。

そこに「オランダVSベルギー」みたいな古臭い敵対関係はない。彼はもはや、半分フランダースの人間なのだ。

もちろん、オランダでも人気が高まりつつある。

“Of course in the sport he is a big star,” Vos said. “And yeah, his name is growing in the Netherlands. He’s getting more famous. But as cyclocross is not a really big sport in the Netherlands, it will take some more time for him to be a really famous person in the whole country.”

(拙訳)もちろん、シクロクロス界での彼は大スター。オランダではシクロクロスはそんなに人気があるスポーツじゃないから、スターのような扱いを受けるにはまだ時間がかかるかもしれない。

ベルギー、オランダ…そして世界へ。

マチューの名声は国境を超えて高まっていくばかりだ。

サラブレッドの未来像

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いかがでしたでしょうか。いかに可能性に満ちたスターであるか少しでも伝わればと。

アムステルの勝利で一気にロードレーサーとしてもトップ選手の仲間入りを果たしたマチュー。

彼はこれからどこに向かっていくのか。1年前の本人の言葉で記事を締めくくりたいと思います。

“For now, I think classics like Paris-Roubaix are the races that I want to race when I’m a bit older,” he said. “Those races are less controlled and straightforward.<中略>But for now I just do my own thing, and I’m trying to have as much fun as possible. For now, I plan to go for the Olympics, and of course I want to win as much as possible, but I’m not really focusing on one thing in particular.”
<中略>
“Some say my father pushes a big stamp on my career,” Van der Poel told De Telegraaf recently. “That is not entirely true. If it was up to him, I would not be focused on the mountain bike now. However, he feels it is important that I do what I like to do. In the end, I’m the one who needs to do it for another ten years. That’s why I think fun should be a priority. You choose the discipline you prefer. On the mountain bike, I have experienced so much fun that this is the most obvious choice for me.”

(拙訳)東京オリンピックの2020年までは、シクロクロスとMTBに集中したいと思っている。(ロードレースだったら)パリ〜ルーベを狙いたい。予想がつかなくて、簡単にはいかないレースが好きだ。
僕のキャリアは父に大きく影響を受けているという人もいるが、それはちょっと違う。もしそうならMTBに集中したいなんて言いだしてないだろう。父にとっては、僕がやりたいことをやるのが大事なんだ。これから10年間、選手を続けなきゃいけないのは僕自身なんだから。だからこそ「楽しむこと」が僕にとってはプライオリティになっているんだ。マウンテンバイクに乗ってるとワクワクする。だから今の段階ではそれが僕にとっての一番の選択なんだ。

 

参考ソース(原文著者の熱がすごいので笑、英語わかる方はぜひ読んでください!)

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