ステティナ、ロードレース辞めるってよ。ーアメリカの低迷時代を支えたベテラン、ピーター・ステティナの決断
Photo by Kansas Tourism on Flickr

トレック・セガフィールドに所属する31歳のアメリカ人、ピーター・ステティナがトレックセガフレードから去る。来年はプロチームに所属するのではなく、個人としてスポンサーをつけたプロとして活動をする。新たな活動の場は、グラベル。

ステティナがグラベルレースに主戦場を移す理由。

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(2019年のダーティー・カンザーでは、1位のグラベルスペシャリスト、ストリックランドから9分遅れの2位。3,4位となったEFエデュケーションコンビには10分の差をつけた)

なぜステティナはグラベルレースに主戦場を移すことを決意したのか?インタビュー記事を紐解いてみると、おおきく分けて3つの要因がありそうです。

① マーケティング的に意味あるタイミングだから

“In terms of marketing for companies, we’re seeing the whole U.S. and worldwide markets shifting that way,” he said. “The gravel scene is just booming, and it gave me confidence the time is right.”

マーケティングと言う意味でも、アメリカだけじゃなくて世界中がグラベルという領域に目を向け始めている。グラベルシーンのブームが今来てるし、それが僕にこのタイミングでの転身を決意させたんだ。

まずひとつは、グラベルレースがマーケティング上重要な領域になっているという事実。ある会社がスポンサーになるのは、その選手をサポートすることでブランド知名度やブランドイメージが向上するから。グラベルレースに注目が集まっている以上、そこにはマーケティングのチャンスが生まれます。グラベルレースを走ってお金をもらいたい選手と、人気選手を支援することで自ブランドを売り込みたいスポンサーは、どちらにとっても必要な存在なのです。

EFエデュケーションもダーティー・カンザやレッドビルなどに選手を送り込み、アメリカのオフロードレースシーンで存在感を増していますが、グラベルイベントの盛り上がりは世界の自転車レースシーンを俯瞰で見た時の大きな流れ。くわしくは「EFエデュケーションがワールドツアー「じゃない」レースに選手を送り込む理由とは」を読んでみてください。

② 楽しいから

“There’s so much fun and personality to these events,” he said. “You can be more of a whole athlete. You’re engaging with the fans. I felt the beauty of the cycling community again. It’s still about racing and being competitive, but it’s also showing you’re just more than a Watt Robot.”

そこには楽しみと人間臭さがあった。全出場選手の一部分になることができるし、ファンともちゃんと触れ合える。もう一度自転車というコミュニティの中に戻れた気がしたよ。レースでしのぎを削る場にいるのも事実だけど、ワット・ロボット以上のものになれるのも事実なんだ。

大勢が出る参加型イベントってお祭り感があって楽しいですよね。レース走っている全員がライバルであり仲間でもあるというあの一体感はレースに出たことある人ならうんうんわかるわかる、ってなると思います。それに、オフロードのレースでは基本的にパワーメーターをつけることはありません。パワーメーターの数値を見ながらレースを組み立てることも珍しくなくなった昨今のロードレースシーンに比べ、自由度が高い走りができるのも一つの魅力だとのこと。

③ 地元のアメリカを拠点に生活できるから

“It is a hard decision to make,” he said. “I believe it’s worth it. This new challenge will lengthen my career and a bonus is I will be based more in the USA. One of the mantras in my career is “A happy racer is a fast racer.”

難しい決断だったけど、それだけの勝ちがあると信じている。この新しいチャレンジは僕のキャリアをより長いものにしてくれるだろうし、もっとアメリカにいることができる。僕のキャリアにおけるモットーは「幸せな選手が強い選手」なんだ。

ヨーローッパを中心に世界各国を飛び回る生活を強いられるロードレース選手たち。ステティナはアメリカで、自分の地元でより腰を落ち着けた活動をすることを選んだとも言えるでしょう。

悩んだ末の決断と、スポンサーのあり方。


(レッドビル100ではEFエデュケーションのモートンと最後まで競り合って4位(+3分半)。ちなみに2位に入っていたのは18歳のクイン・シモンズで、2ヶ月後の世界ジュニア選手権ロードで独走勝利を遂げた超有望選手)

ステティナは所属するトレック・セガフレードに話を持ちかけたものの、ステティナにロードレースを走ってほしいチームと、どうしてもグラベルに注力したいステティナの間の溝は埋まることはありませんでした。

“It makes sense for a lot of sponsors, but for the Euro managers, we didn’t see eye-to-eye. The main issue was that their responsibility is to win road races and the Euro-centric sponsorship model made it difficult for them to justify the gravel side gig."

多くのスポンサーにとって僕の決断は納得できるものだったけど、ヨーロッパのマネージャーにとっては難しかったみたいだ。彼らはヨーロッパを中心としたスポンサーモデルを考えてるからグラベルに注力することを正当化できなかった。

「チームに残ってロードレースを走る」「チームを去ってグラベル専門になる」という2択を迫られたステティナは、後者を選択します。結果、スポンサーはチームに頼るのではなく自分で探すこととなるのですが、今年グラベルレースでしっかり結果を残したステティナには、キャニオン、Sportful、クリフバーなど大きなスポンサーが次々と決まっていきました。ステティナにはこの「個人へのスポンサー」という形をどんどん広めていきたいという思いがあり、熱いコメントを残しています。

“My sponsor model is going to be a bit different,” he said. “Luckily, I am partnering with companies that see the value in what I’m doing. I am confident how it’s going to work out, both on and off the bike. My partners and I have a plan that will radicalize the traditional sponsored pro format and I think will ultimately be more fulfilling both personally and for the industry.”

僕のスポンサーモデルは今までとは少し異なるものとなる。幸運なことに、僕のすることに対して価値を見出してくれる会社がいくつも見つかった。僕はこれからもっとうまくいく自信があるし、それはキャリアの話だけじゃなくてプライベートの上でもだ。僕たちには伝統的なスポンサーのありかたを変えていくプランがあって、それは僕個人としても自転車界全体としてもより充実したものになると思っている。

ステティナの決断は新たなロールモデルとなるか。

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“Let’s be clear — this is not a retirement. It’s a transition,” Stetina said. “I’m in my prime physically. I’m happy and still hungry, but I realized there is more to achieve in a different realm.”

はっきりしておきたいんだけど、これは引退なんかじゃない。変わるタイミングなんだ。体は衰えていないし、僕は幸せで勝利に貪欲だ。ただ、違う領域で成し遂げたいことがもっとあるって気づいたんだ。

アメリカには、最近では先述のジュニア世界王者クイン・シモンズなど有望な若手が次々と出てきています。いろいろな意味で世間を騒がしたランス・アームストロング世代の後、アメリカのロードレースは人気も陰り長く低迷していました。そんな暗い時代にヴァンガーデレンらとともにアメリカを支えてきたのがステティナです。ただ、ステティナは、誰もが憧れる偉大なチャンピオンになれたわけでもありません。

そんな彼が自転車が「楽しい」というシンプルな思いを求めて決断した、グラベルへのチャレンジ。そして彼個人に支援するスポンサーがちゃんといるという事実。自転車が好きで、才能もあって、チャンスにも恵まれて、トッププロまで上り詰めて、、でも偉大なチャンピオンにはなれなかった。だけどもっと自転車を続けたい。そんな思いを持つ無数の選手たちに、ステティナが歩もうとしている道が一つのロールモデルとなる日が来るのかもしれません。

参考ソース

 

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