ほとんどの仮説の流行りには、いつか終わりが来ます。どんな考え方にも時が経つにつれ「ほんとにそうなん?」という人が現れる。科学はそうやって進化してきました。マージナル・ゲインも例外じゃありません。マージナル・ゲインが世の中に流行を巻き起こしてから数年。当事者であるウィギンスをはじめ、最近になって疑問を呈する声が続々と現れています。ということで、【Sky解体新書】第4弾はマージナル・ゲインにまつわる誤解についてのまとめです。
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誤解1:足し算である
足し算じゃありません。掛け算です。1%を365日足し合わせても4.65倍にしかなりませんが、1%を365日掛け続けると37.44倍になります。たかが1%、されど1%、と言われるのはこうした理由があるのです。
誤解2:青天井である
残念ながら、すべての要素を1%ずつ永遠に改善し続けることは不可能です。最初が相当ひどければ別ですが、既に相応の努力をしているのであれば、1%の改善は、それを積み重ねていくに連れどんどん難しくなるでしょう。
誤解3:改善は蓄積可能である
1%の改善をしていると「あちらを立たせばこちらが立たず」という事がしょっちゅう起こりえます。例えばホイールを軽量化したいとしましょう。この場合、リム高は低くしたほうが理にかなっています。すると空力が犠牲になってしまいます。「自転車で走る」という要素を切り刻み、そのすべてを向上させようとすると、そうしたトレードオフがそこかしこで起こるのです。
誤解4:全ての1%の改善は、もれなく1%のパフォーマンス向上につながる。
1%の改善をしたら、パフォーマンスも同じように1%向上するのでしょうか。気持ちとしては、努力の分だけ強くなる!と信じたいところですが、なにかの要素(タイヤの転がり抵抗とか空力とか)が1%良くなったらタイムも1%良くなるのか?と問われれば、答えは限りなくNoです。そんなに単純ではありません。また、論点はずれるのですが、1%筋肉を増やすことと、1%空力を良くすることは同じ重みではありません。
誤解5:繰り返しが可能である
ある一つの要素について、1%改善する方法を見つけたとしましょう。それをもう一度できるか?と言われれば、ケース・バイ・ケースだとしか答えられません。例えばペダルを例に取りましょう。
金属製のペダルなら軽量化するために、カーボンにできます。次は空力を良くするために、スピードペダルのエアロペダルにしましょう。ベアリングを良いものに変えればもっと良くなります。ポジション、Qファクターの改善もできるかもれません。あとは…、空力も良くなるし軽量化にもなるしクリート削って高さを低くしてみようかな。。
永遠に繰り返し続けることの難しさを感じていただけたでしょうか。
誤解6:常に新しい
常に新しい改善の方法を求めることには限界があります。1%の改善方法を見つけたとして、もし簡単にできるものなら、それはまたたく間に真似されてしまうでしょう。逆に言えば、良い取り組みすら真似できない怠け者は生き残れないのです。
誤解7:簡単に計測できる
いろいろ試したうち、何がパフォーマンス向上につながっているのか、というのを検証するのは非常に難しい作業です。空力とか転がり抵抗とか、重さならまだ分かりやすいかもしれません。スカイの有名な「同じ枕とマットレスを毎日使う」という改善が、どれだけパフォーマンス向上につながっているのか検証できるでしょうか?これはかなりの無理難題。メンタル面の話になれば、更に話は曖昧模糊としてしまいます。
誤解8:常に実現可能である
誤解3「蓄積可能である」とも関わってくるこの誤解は、「あちらを立てればこちらが立たず」パート2です。何かの要素を究極的に改善していくと、他の何かが犠牲になります。例えば、空力を求めて極細のスポークがついたホイールを開発したとすると、安全性が犠牲になっている。理論上は空力低減が可能でも、実際に実現しようとすると新たな壁が現れます。
誤解9:安い
前回の記事でも紹介した点です。マージナル・ゲインを得るために、自転車をゼロから開発しよう。ケミカル類やウェアもゼロから開発しよう。そうだ、チームバスと機材トラックもカスタムで作らないと…。お金がかかって仕方がありません。
アマチュアにとっても、マージナル・ゲインは効果があるのか?
さて、このマージナル・ゲインは、アマチュアはじめ誰にでも効果があるのでしょうか。「1gでも軽くするためにこんな部品を使っています!」というのも、マージナル・ゲインです。それに対して「自転車100g軽くするよりも体重軽くするほうがどう考えても効率的」という人もたくさんいました。これも、マージナル・ゲインです。マージナル・ゲインという考え方における正解は、どっちも実践すること。
しかし、プロではないのであれば、場合によってはプロでも、リソース(お金とか時間とか家族の理解とか)の制約が誰しもあり、さらにその制約の種類は人によって違うので、ただ上手くいってる人やチームの真似をするというようなことは難しいはずです。逆に言えば、アマチュアこそマージナル・ゲインの考え方は重要ともいえます。スカイのように、お金かけて考えうることは何でもやる!というアプローチではなくて、各々の制約を踏まえて、今一番効果があることはなにか?今一番すべきことはなにか?ということを考えなければいけないからです。そうすれば、しっかり今までの振り返りもできて、着実な改善に繋がるんじゃないかと。
とても陳腐な結論にはなりますが、結局のところ、プロでもアマチュアでも、シンプルに「大きな目標」と「日々の改善」を意識するだけで、充実感は得られるはずです。
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参考ソース:
- Are marginal gains for everybody?|Cycling Weekly
- Challenging Marginal Gains Mathematics: 10 Myths about How Marginal Gains Add Up | FastFitnessTips: Cycling Science!
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