UCI未登録。米LAを拠点とする非凡なチームL39IONが世界中に注目される理由
Photo by Jonni Armani on Flickr

L39ION(Legion)というチームを聞いたことあるでしょうか。UCI未登録(英語メディアではElite Teamという表現)でありながら、各メディアからの引き合いが絶えず、スペシャライズド、ラファ、GoProなどをスポンサーに持ちます。創設者は、かつてコンチネンタルチームに所属し、ナショナルチーム唯一のアフリカンアメリカンとしてヨーロッパでのレースを経験したこともあるジャスティン・ウィリアムス。ロサンゼルスを拠点とする異色のチームが注目を集める理由を探りました。

L39IONが築いた独自のポジショニング

ジョージ・フロイド氏の死とそれに伴うBlack Lives Matterのムーブメントが世界中で大きなうねりを見せる中、スペシャライズドはダイバーシティ・インクルージョン関連の非営利活動に3年間1000万米ドル(約1億700万円)を費やすこと、さらに、L39IONチームへ追加で資金供給をすることを決定。また、ウィリアムスら自身が立ち上げたファンドレイジングではすでに1000万円以上の資金が集まっています。

このエピソードからもわかるように、彼らがアフリカンアメリカンやヒスパニック系などダイバーシティに富んだ選手を多く抱えるという点、そしてアメリカにアフリカンアメリカンのプロ選手はいないという事実もあいまって、彼らのアイデンティティそのものが、スポンサーやメディアの注目を集める理由の一つではあります。

でも、もうひとつ注目すべきなのはチームとウィリアムスのクリテリウムへの情熱。ヨーロッパの伝統的なロードレース、特にツールドフランスで活躍することだけが自転車ロードレース選手として最大の成功とされるような風潮の中、このスポーツの様々な価値を彼らなりの目線で探る姿勢に興味を持つ人が多くいるのです。

「クリテリウムはロードレースの一部じゃなくて、全く別のもの」「激しく危険な争いになることも多いけど、エキサイティングさではロードレースよりもずっと上」と語り、自身もアマチュアの米チャンピオンとして(ノーブレーキピストで争うことで有名な)Red Hook Criteriumをはじめとする様々なクリテリウムに参加。

大規模に道路を封鎖する必要もなく、少ない時間で、そして都市中心部でも開催可能なクリテリウムは、いわゆるコアな自転車ファン以外にもリーチする珍しいレース。日本でも、ジャパンカップ宇都宮クリテリウムはいわずもがなですが、たとえば神宮クリテは超スター選手が出ておらずとも通りがかりの一般の方がふらっとレースを観戦し、選手の知り合いもアクセスしやすいことから、国内レースでは珍しく多くの観客による高揚感が会場に漂います。

L39IONはYoutubeやSNSなどでもプレゼンスを発揮。迫力のオンボードカメラの動画(上記)や、さらにレース振り返り解説&コメントを加えたコンテンツなどをあげています。ファン層の拡大、エンタメ性の追求という意味でも、彼らの取り組みは注目に値するでしょう。

「スターを生むには、自転車レースをもっとクールにすることが必要」

All these things that I thought were really cool, like fashon, or rap music and hip hop.. but when figured out I could infuse that into cycling, the thing that I love, man, that changed my whole life.
自分が本当にクールだと思っていたものすべて、ファッション、ラップ、ヒップホップ…、こうしたスタイルを自転車レースに持ち込めると気づいたとき、私の人生は大きく変わったんだ。

自らのルーツ、アフリカンアメリカンのカルチャー、例えばヒップホップなどのスタイルを自転車というスポーツに持ち込みたいという独特な目線も面白いです。

GCNインタビューで「自転車チームのマネージャーは選手にビッグになってほしくないみたいだ」という趣旨の発言をしているウィリアムス。先日豪メディアCYCLINGTIPSのPodcastに出演した際には、「どうしたらスターを生みだせるか?」という質問に対して、何度も「自転車レースをもっとクールにすることが必要」と繰り返しました。

その一つのアイディアとして、ウェア類の刷新を提言していたのでご紹介。

まず、色。

リバプールは赤、レイカーズは紫&金、日本代表は青。アイコンとなるチームには、それを象徴する色があります。現状だとスポンサーが変わるごとに色が変わってしまう、もっといえばチーム名も変わってしまうトップチームの現状に対する提案です。

そして、名前と背番号

時にスポーツにおいて、背番号というものは神格化されます。レジェンドには永久欠番を、エースにはあの数字を。ちなみにユンボビスマのボス、Richard Pluggeも「大会ごとにゼッケンを変えたりするのは古いし、ピンやシールで止めると空力的にも良くない」と、同様に固定背番号のシステムを支持するコメントを残しています。実はユンボビスマのチーム内番号はすでにあって、ログリッチェが一番、トム・デュムランが六番なんだとか。

最後に、カスタムペイントヘルメット。

名前・背番号と同じく、選手を見つけやすく、応援しやすくするためのアイディア。解説者・アナウンサーの方々の熟練の選手判別能力に頼ることなく、ファンが簡単に選手を見つけられるようにと。勿論今でもカスタムヘルメットは存分に活用されています。

例えば、世界選手権を制したサガンのレインボーヘルメット。
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リオ五輪を制したヴァンアーベルマートのゴールドヘルメット。
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彼らのようにタイトルホルダーの証としてカスタムペイントのヘルメットをつける選手は今でも多いですが、必ずしも現タイトルホルダーでなかったとしても自らのキャラに合わせてヘルメットにカスタムペイントをほどこす選手は過去にもいました。

少し時代をさかのぼりますが、パンターニの盟友で2000年ジロ覇者のガルゼッリは一貫して豹デザインのヘルメットにこだわったことで有名です。
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また、2011年ジロ覇者であり、2017年に練習中の不幸な事故で命を落としたスカルポーニも、タカをあしらったヘルメットを着用していた時期がありました。(隣はアルカンシェル仕様のヘルメットを被るエバンス)
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今のミニマルデザインの流行を鑑みると、こうした派手メットがリバイバルするかは不明ですが、カスタムヘルメット着用をはじめとするわかりやすさというのは、ほとんどの選手がヘルメット&サングラスをして顔が見えない自転車レースにおいて、決して軽視できない要素なのかもしれません。

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↑Podcastリスナーのデザイナーが、上述のアイデアを基に起案したEF所属ベッティオールのジャージデザイン。

参考ソース

 

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