31歳にして引退を決意したマルセル・キッテルにライバル達が贈った言葉に胸を打たれたという話
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今年の春、華やかなジロの裏で突然の休養宣言をした華やかな男、マルセル・キッテル。稀代のジャーマン・スプリンターは、ヴェルタを前にして引退を正式に表明しました。そんな彼に長年のライバルであるカヴェンディッシュとデゲンコルブが贈った言葉に胸を打たれたのでシェアします。

    マーク・カヴェンディッシュ「キッテルは僕が初めて"どうすれば勝てるんだ?"と試行錯誤した相手だ」

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    マーク・カヴェンディッシュ。キッテルと同様に、最近はめっきり勝てなくなってきてしまったかつての最強スプリンター。キッテルと共に一時代を築き上げ、スプリントシーンを沸かせたカヴェンディッシュがキッテルに贈ったツイートは世界中の人々の共感を呼びました。

    (拙訳)何年もの間、僕は最強だと思っていた。誰にも負けないし、無敵だと。一人の男が現れて全てを変えた。筋肉隆々の山みたいなブロンドヘアの男。それがマルセル・キッテルだ。自転車界のロッキーIVみたいだったよ。彼は僕が初めて「どうすれば勝てるんだ?」と試行錯誤した相手だ。

    (続・拙訳)マルセル、僕は君に感謝したい。ライバルとして僕らの戦いを高みに上げてくれたことに。そして何より、自転車ファンに興奮を与えてくれたことに。

    (続・拙訳)ライバルとしては、僕らはナーバスな戦いを繰り広げてきた。でも一人の人間同士としては、僕らはお互いに幸福で穏やかな生活を望んでいる。僕は君が次のステップでも、うまくいくよう願っている。」

    なぜこんなツイートをしたのか?という野暮な質問にもカヴェンディッシュは誠実に対応しています。

    “The amount of times I’ve heard, ‘Oh, one less competitor’ — but it’s like, I don’t really wish for one less competitor because it’s someone who is suffering,” Cavendish said. “I wanted to write something for the heart, and it doesn’t matter if you’re friends or not. You don’t wish suffering on anybody. It was as simple as that.”

    何回も『これでライバルがひとり減ったな』と言われたよ。でもそんなのは僕が望んでいることじゃない。人が一人苦しんでいるんだから。心の底から何かを書かなきゃと思った。友達だろうとなかろうとそんなことは関係ない。誰かが苦しむことを望むなんてしないんだ。シンプルじゃないか。

    一昔前は苛ついてジャーナリストのテープレコーダーを奪い取ったりするなど「荒くれ者」ぶりを遺憾なく発揮していたカヴェンディッシュも気づけば34歳。かつてのように尖ったコメントや行動はしないようになってきました。雨後の筍のようににょきにょきと出てくる若手スターを前に、渋さが増してきたベテランスプリンター。引退前に、彼がもう一度輝く姿を期待しているファンも多いのではないのでしょうか。

    ジョン・デゲンコルブ「自転車をやめたとしても、そこで彼の人生は終わりじゃない」

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    そしてもうひとり、キッテルやグライペルとともにウルリッヒショックから立ち上がれずにいたドイツ自転車界を大きく進歩させたのが、デゲンコルブ。スプリンターとしてはもちろん、パリ〜ルーベなどでも勝利した一流選手。プロトン内でも「いい人」として知られるデゲンコルブのコメントにも刺さるものがあったので紹介しておきます。

    I’m in touch with him and I help him as good as I can. It’s very important to stick together. We’ve been through so many great and also bad moments in our lives and it’s not, even if he stops cycling now, or he doesn’t come back, it doesn’t mean his life is over

    僕は彼と連絡を取り合ってるし、できる限り助けになろうとしてきた。僕らにとってお互い支え合うことはとても大事なことなんだ。僕らは人生の素晴らしい瞬間も、最悪な瞬間も味わってきた。それに、もし仮に彼が自転車を今やめたとしても、カムバックしてこなかったとしても、そこで彼の人生は終わりじゃない。

    まだこれからの進路を明確にしていないキッテルですが、そんななかで「自転車選手である以前に人間である」というデゲンコルブのコメントは思慮深く、胸が熱くなります。

    I think the question is not right now if he comes back in cycling or not. The question, or the main focus, should be he comes to the point that he enjoys what he does. It doesn’t matter what it is

    考えるべきなのは、彼が自転車界に戻ってくるか戻ってこないかという話じゃない。今フォーカスすべきなのは、彼が自分が取り組んでいることを楽しめているかどうかだと思うんだ。それが何かは問題じゃない。

    「誰でも何でも言える世界」

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    “We’re living in a world now where everyone has access to have their say, and that puts a different pressure onto anybody, let alone professional sports people,” Cavendish said. “It’s changed the whole dynamic of professional sports, and it’s changed the whole dynamic of life.”

    誰でも何でも言える世界に僕らは生きている。そしてその言葉たちは、知らない誰かに様々な形でプレッシャーを与える。言うまでもなくプロスポーツ選手だって例外じゃない。プロスポーツのあり方が大きく変わった。その生活も大きく変わった。

    カヴェンディッシュがあるインタビューで残したコメントは、インターネット上のブログやSNSで誰でも意見やコメントを世界中に発信できるようになったことを暗に意味しています。カヴはきっとそうした批評・批判に大きなフラストレーションを抱えた時期があったのでしょう。

    私見をブログで書くときは「面と向かってその人に言えるか?」をできるだけ心に留めて書くようにしよう。カヴェンディッシュとデゲンコルブの言葉を聞いてそう思った、そしてデゲンコルブは本当に良い人だ、という話でした。そんなデゲンコルブも出場するヴェルタ、あと3週間は寝られない夜が続きそうです。

    参考ソース

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