イネオスGMブライルスフォードの右腕はバーレーンメリダに改革をもたらすかー「イギリス自転車界で最も過小評価されている男」ロッド・エリングワースの挑戦
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ロッド・エリングワースが今年4月ブライルスフォードの元を離れ、来シーズンからバーレーン・メリダを率いることが発表されました。スカイ(現イネオス)を率いたGMデイブ・ブライルスフォードと二人三脚を組んで、イギリス自転車選手たちを強化してきた「ブライルスフォードの右腕」です。

衝撃をもって受け止められたブライルスフォードからの離別

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彼がBritish Cycling Academy Programmeを立ち上げたのは2004年、その門をくぐった選手の数は数え切れません。マーク・カヴェンディッシュ、ゲラント・トーマス、エド・クランシーなど錚々たる選手がその門下生として名を連ねます。5つのオリンピック金メダル、12個のトラック世界選手権タイトル、ロードレース世界選手権タイトル、51個のグランツールステージ勝利、そしてツール総合優勝など、指導者としては実績文句なしの折り紙付き。

チームスカイに関わる書籍に限らず、G・トーマスやフルームの自伝にもエリングワースの名前は何度も登場します。発表があった当時、フルームは彼の離脱はBig Blow(大きな痛手だ)と語り、その腕前を高く評価しています。

“He was extremely good at planning and organising all the pieces behind the scenes that bike riders don’t necessarily see all the time but I know Rod was fundamental to a lot of the big decisions behind the scenes,”

彼は計画に非常に長けていて、選手たちであれば知る必要がないことまで把握してそのすべてのピースを組み合わせる。ロッドの意見は様々な大きな決断において、常にベースとなっているんだ。

しかし「マージナル・ゲイン」を始めとする理論を世間に問うてきたチームのGM、デイブ・ブライルスフォードに比べて彼が表に出てくる機会はそう多くありません。そんなエリングワースをカヴェンディッシュはこう評したことがあります。「イギリス自転車界で最も過小評価されている男」。なぜエリングワースはスカイ改めイネオスを離れる決断をしたのでしょうか。

「別にスカイやブライルスフォードに不満があったわけじゃない」

まず素人考えで思いついてしまうことは「不仲説」でしょう。私達は別れ話とか、他人同士のいがみ合いについての噂話が大好きです。しかし、インタビューで聞かれたエリングワースはこう答えます。

Ultimately, Ellingworth says, it was nothing to do with Sky or Ineos or any of the people there, who he describes as “like family”. “I wasn’t p----d off. It was fine. It was just starting to feel a little bit Groundhog Day. I wasn’t as motivated by the new challenge as I should have been. I needed something new.”

エリングワースは語る。この決断はスカイにもイネオスにも、そこにいる人々(ロッドは彼らのことを”家族みたいなもの”と語る)にも全く関係がない、と。「別に不満があるからやめるわけじゃない。毎日が同じ日の繰り返しのように感じ始めただけだ。このチームでの新しい挑戦に以前と同じように熱くなれなくなってきた。何か新しいものが必要なんだ」

エリングワースは不満ではなく、単純に新たなチャレンジの機会を求めたのです。18年間にもわたってブライルスフォードとともに苦楽をともにし、気づけば47歳になったエリングワースは既に脇を固めるスタッフ陣をリクルートしはじめています。

マクラーレンの技術力という「ぶら下げられた人参」

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マクラーレンとバーレーン・メリダの提携。このニュースは自転車界を興奮させ、ジロでお披露目されたマクラーレン仕様のチームカーがSNS上で拡散されました。

エリングワースにとっては、この提携が(少なくとも彼自身の弁によれば)移籍の一番の理由のようです。そのマクラーレンのキーパーソンは、マクラーレン・アプライド・テクノロジーズ(マクラーレン応用技術部門)のダンカン・ブラッドリー。詳細は不明ですが、マクラーレンのデザイナーとしてスペシャライズドと提携し、VengeやRoubaixの設計にも関わっていたというネット記事も散見されます。

“He is very much one of the reasons I wanted to get involved,” Ellingworth says. “If you want an innovation hub then McLaren Applied Technologies is one of the best in the world. And Duncan is MAT. Ron [Dennis] brought him in. I see Duncan as absolutely critical to our potential success. He’s a massive asset for us.”

彼の存在が一番大きな理由だ。もしイノベーションハブがほしいなら、マクラーレン応用技術部門(MAT)は選びうる選択肢の中でもベストの一つだ。そしてダンカンこそがMATそのものだ。ローハン・デニスが彼を引き入れた。私はダンカンこそが成功への鍵だと思っているし、チームにとって重要な資産だ

スカイがピナレロと組んでバイクを開発したように、バーレーン・メリダは徹底的にマージナル・ゲインを突き詰めるのでしょうか。ただ、ローハン・デニスがダンカンを引き入れたという点が少し引っかかります。この先どのような展開が待っているのかは妄想するしかありません。

「ローハン・デニスにはチームに残ってほしかった」

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マクラーレンとの提携でロードレース界に話題を振りまいたチームに芳しくない空気が流れ始めたのはツールの真っ最中でした。チームの中心的存在でTTスペシャリスト、近い将来総合系の選手としての活躍を期待されていたローハン・デニスが突然レースを去ったのです。

続いて、先月の世界選手権個人TTでは、デニスはチームが供給するものではない機材を使って優勝。さらに世界選手権終了後にはチームからの脱退が発表されました。エリングワースはこのキーマンの離脱を残念がりました。

“One thing I will say is I wanted Rohan to stay,” Ellingworth says. “He was definitely a part of my long-term plans so I’m disappointed at the way things have panned out.”

ローハン・デニスには残留してほしかった。彼は間違いなく私の長期計画において重要なキーパーソンだったから、この結果には落胆している。

去るニバリとデニス。来るランダとプールス。

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(かつてチームメイトでもあったプールスとランダ)

チームのエース、ニバリが去ったのに加えてのデニスの離脱。何かチームに問題があるのでは??とそこかしこで噂話が巻き起こったものの、エリングワースは前を向きます。モビスターから加入するランダ、イネオスから加入するプールスを戦力としてまずは考えていると。飛ぶ鳥を落とす勢いで強さを増すユンボビスマに次いで、イネオスを轟かす存在になることはできるのでしょうか。

“Although I’ve no problem in saying that I want this team to become a grand tour-winning team,” he adds. “And yes, that means a Tour de France-winning team.” Could Poels or Landa win the Tour? “Never say never. Wout, for now I think, one-week stage races are really what he will target, at least initially.

「私はこのチームでグランツールを勝ちたい。そう、ツール・ド・フランスに勝つチームだ。」プールスとランダでツールを勝てると?「ありえないなんてことはない。プールスに関しては、まずは1週間程度のステージレースをターゲットとすることとなる」

「カルチャーをつくる」これから始まるエリングワースの挑戦

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とはいうものの、エリングワースの挑戦はまだ始まってすらいません。まず取り組むべきは「カルチャーを構築し、お互いをよく知り、キャンバスにビジョンを描くこと」だと語るエリングワースにとってのシーズンは、12月、クロアチアで行われるプレシーズンチーム合宿で始まります。

“It feels a bit like going to the velodrome back in the day. It’s full of brainy people who want to get the best out of themselves. It’s all about performance and how to unlock it. It’s left me super-motivated. But I absolutely don’t want to walk in and say, ‘This is how you do it’. I want to build the culture over the next 12-18 months.”

(イギリスで選手育成を担っていた)ヴェロドロームに向かう感じと似ている。そこには自分たちのベストを尽くしたい聡明な人がたくさんいる。全てはパフォーマンスと、それをどう開放させるかだ。私はモチベーションに満ちあふれている。でも絶対に「これはこうやるんだ」と講釈を垂れるような真似はしたくない。次の12-18ヶ月でカルチャーを作りたいと思っている。

カンスタンティン・シフトソフやクリスチャン・コーレンドーピング騒動とそれに伴う解雇、先述した主力選手の離脱が相次ぐこのチームには、確かにカルチャーの構築が必至となるでしょう。

参考ソース

 

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