
サイスポでもCYCLING TIPSでも絶賛。
今年一番話題になったロードバイクといえば、SPECIALIZED S-WORKS VENGE。今年一番話題になったランシューズといえば、NIKE Vaporfly。WIREDやPRESIDENTでも話題になるほどのホットなトピックです。
なんでこの2つは速いのか?なんで売れてるのか?
シーズンオフだし、ボーナス出たし、プロダクト系記事でも書いてみようとPCの前に座ったわけですが、、、、、結局いつもの哲学風味な雑記になりました。
「VENGEは速い」「Vaporflyは速い」という理論はデータや研究もあって科学的に正しいようにみえるけど、結局は「正しいかどうかは、そう信じているかどうかだ」という結論のよもやま話です。
科学とは何か?「科学的であるという事は、ひっくり返される余地があるかないか」
私が中学生のとき、やかましい国語の先生が読め読めと言っていた本に「99.9%は仮説」というのがありまして(この本の内容に書いてあることも仮説に過ぎないんだぞ!、とドヤ顔で語っていたことを今も覚えています)、そこにはこんな記載があります。
科学というものが、ほかの知的な、あるいは知的でない営みとちがうところはどこなのか?どこに境目があるのか?たとえば、疑似科学や宗教と言われるものと科学はなにがちがうのか?そういうことを突き詰めていった結果、ポパーはそれらを区別する方法として「反証可能性」をあげたわけなんです。「科学は、常に反証できるものである」とはっきり定義したのです。
ひらたくいえば、理論に反する実験や観察がでてきたらその理論はダメだということを潔く認める、それが科学だっていうんです。
有名な『科学的発見の論理』という本のなかで、科学哲学者カール・ポパー(1902-1994)がいかにして科学を定義したかというエピソード。
何億回も実験を行って理論に合うデータがでてきたとしても、そのつぎの実験で理論に合わないデータがでてくる可能性はいつだってゼロにはなり得ません。つまり決定的な証明は永遠にできないし、あらゆる研究結果というのは「あとでひっくり返される余地がある」けれどもとりあえず実験上は正しい結果だということです。
わからんくなってきましたね。
VAPORFLYを例に取りましょう。コロラド大学の研究でVOPORFLYのプロトタイプをトップランナーたちに履かせて走らせたら、全員(!)が他の靴を履いたときより少ないエネルギー消費で走れた(つまり速く走れる)、という結果が出ています。なんせ全員に効果があったみたいなので、これは実験上間違いなく意味のあるデータです。
結果は明らかだった。研究チームが集めた18人のランナー全員のエネルギー消費は、VAPORFLYを履いたときに最も少なかったのだ。
しかし、ここで問題となるのは「VAPORFLYを履けば速くなる」という理論が”科学”であるためには「もし一人でもVAPORFLYを履いて遅くなる人がいたらその理論はダメ」という反証可能性を受け入れなければならないということです。
前述の実験対象はたったの18人ですから、もっと多くの人をテストすれば必ずVAPORFLY履いてエネルギー消費が多くなってしまう(つまり遅くなる)人だって出てくるはずです。実際VAPORFLY履いてもコンディション悪かったりでベスト出せない人はたくさんいます。
つまり「VAPORFLYを履けば速くなる」というのは(ポパーのいう定義においては)科学的に正しくない可能性が非常に高い。
それでも、もし仮に1000人がVAPORFLY履いて走って、そのうち600人くらいのタイムが速くなったら「やっぱVAPORFLY履けば速くなるじゃん!」と言いたくなるかもしれません。でも例えそれが事実だったとしても、統計的に有意なデータがとれたというだけで、決して靴とタイムの間の因果関係が証明されているわけじゃないのです。それに400の反例がある時点でアウトです。
つまり「VAPORFLYを履けば速くなる」は宣伝文句であり、もう少しポジティブな言い方をすれば信条なんですね。そして、信条に反証可能性はないので、もはや科学ではありません。その人がそう信じてる、というだけですから。
VENGEの空洞実験の結果にも同じことが言えるでしょう!(同じことの繰り返しになるから調べるの面倒になった。ご参考までに、日本語記事・英語記事などのせておきます)
すぐ数字に頼ってしまうわたしたち
空力が、、、!パワーが、、、!さまざまなことが定量的に評価されることがあたりまえになり、マージナルゲインのような考え方が主流となっている今の時代。個人的にも理系の勉学を嗜んできた身なので定量的な話も割と好きなのですが、それだけが絶対な基準にはなり得ないということも事実です。
みんな大好き星の王子さまはこんなことを言っていました。私達はこんな「大人たち」になっていないでしょうか。
たとえば、あなたが、大人たちに、新しくできた友だちのことを話そうとすれば、大人たちは、本質的なことについては何も質問しないでしょう。
<中略>
もしあなたが大人たちに対して、 「バラ色のレンガでできた、とても美しい家を見ました。窓にはゼラニウムの花が飾ってあり、屋根には鳩がとまっていました」 と言っても、大人たちはそれがどんな家なのかまったく見当もつきません。 その代わりに、あなたがこう言ったとしましょう。 「一億二千万円の家を見ましたよ」 すると、彼らはこう言うでしょう。 「それはさぞかし素晴らしい家だったでしょう!」
それからもうひとつ。私はVENGEやVAPORFLY 4%を持ち上げまくる各種メディアを批判しているわけではありません。例えば先程私が「18人しか実験対象いないのにそれを真に受けてるんかい!」とマウントをとろうとしたWIREDの記事ですが、最後にはちゃんとこんなマトモなことを書いているのです。
一連の結果からわかるのは、ランナーの生理機能がレース中に変化するのに応じて、VAPORFLYで走ることによる生体力学的な利点が変化するということである。それだけでなく、場合によってはマイナスの影響を及ぼす可能性も示されている。
しかし、これらは全て憶測にすぎない。現時点でこれらのデータが示しているのは、素晴らしいクッションを用いたナイキの魅力的なシューズが、慎重に管理された研究所の環境では本当にランニングエコノミーを改善することである。
こじつけではないかって? 確かにそうかもしれない。だが、これはナイキの広報担当部門だけではなく、レース当日にちょっとした支えを求めている多くのランナーにとっては、喜んで受け入れられる結果なのだ。
要するにSpecializedとNIKEはデータを使って人々の「その気」を生み出すことに成功したとこの記事では結論づけてて、必ずしもタイトルのように「VAPORFLY 4%履けば本当にマラソンで早く走れる」と言いきってるわけじゃないんですね。タイトルと内容のミスマッチはさておき、ともすれば宣伝となってしまうようなコンテンツを、お金をもらいもしていない大手メディアがおいそれと出すはずはないのです。
いずれにせよ、VAPORFLYのエネルギー消費データしかり、VENGEの空力実験データしかり、プラシーボ効果を得るには十分すぎます。そして物欲を刺激するにも十分すぎる。
あー新しいランニングシューズと新車ほしい。ボーナス♪
ということで、「信じれば速く走れる」ヴェイパーフライネクスト%とS−WORKS VENGEのリンクを貼っておきます。
この記事読んで買う人はいないかもしれませんが笑。
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