自転車選手と戦場記者と、そして富豪の出会い - フルーム獲得チーム創設秘話
Photo by Ray Rogers on Flickr

驚きをもって受け止められたクリス・フルームのイスラエル・スタートアップネイションへの移籍決定。ツール・ド・フランス4勝という輝かしい実績を引っ提げ、2021年からチームに加わります。

そもそもこの小さな国のチームはどんな経緯で設立され、どのように大きくなってきたのか。探ってみました。

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戦場記者とアマチュア選手の病院での出会い

チーム設立の系譜は2008年にまで遡ります。

当時ジャーナリストとして活動していた同チームの広報担当Tsadok Yecheskeliは、南オセチア紛争(別名ロシア・グルジア戦争)の取材中にミサイルで負傷。約10名が死亡したその惨劇により、昏睡状態で病院に運び込まれた彼はその後一年近くをその病院で過ごすこととなります。

そこで出会ったのがRan Margaliotというヨーロッパでプロになる夢を持つ若きアマチュア選手(上記動画のスキンヘッドの人物、当時は兵役で病院勤務だった?)。その後国内選手権で3位になるなど成長を遂げたMargaliotは2011年からサクソバンクのトレーニーに。翌2012年には正式に契約してコンタドールや宮澤とチームメイトになるも、目立った成績は残せず引退を決意します。ただし自転車から離れるのではなく、新しい夢をもって。

His new dream was to bring an Israeli team to the Tour de France one day, He met this Israeli businessman who was a cyclist himself – Ron Baron – who offered to give him a few hundred thousand euros every year to help realise his dream.

(引退した)彼の新しい夢は、イスラエルのチームをツールドフランスに出場させることだった。彼はイスラエル人実業家で彼自身もサイクリストであるロン・バロンと会って、毎年数十万ユーロ(数千万円)の資金供給の約束をこぎつけていた。

この活動に、Yecheskeliはボランティアベースで支援することになり、2人は協力して2014年にチームを運営し始めます。

ほどなくカナダの実業家であり自身も熱心なサイクリストであるアダムス氏が自転車チームへ興味を示しているという噂を聞きつけ、Margaliotは「一緒にライドに行かないか」とコンタクト。とんとん拍子で資金提供がきまります。

そして2015年。シルヴァン・アダムスが先述のロン・バロンとともにチーム共同オーナーとなったことで、小さなコンチネンタルチームは猛スピードでステップアップをとげるのです。

プロコンチネンタルチームへの昇格。ジロのイスラエル招致&出場。ワールドツアーチームへの昇格。そして今回のフルーム獲得。

わずか5年でツール優勝を狙うビッグチームの仲間入りを果たすことに。

シルヴァン・アダムスとは何者か


さて、そもそもシルヴァン・アダムス氏とは何者なのでしょうか?

一言でいえば、富豪の御曹司。

父は第二次世界大戦の際にカナダに亡命してきたルーマニア出身のマルセル・アダムス氏。不動産業で築き上げた一族の資産は1.6billionドル(約1700億円)にのぼります。この事業を継いだのがシルヴァン・アダムスです。ちなみに父のマルセル・アダムス、存命のビリオネアの中では2番目の99歳という長寿。

自信も熱心なサイクリストであるアダムスは、マスターズの年代別世界チャンピオンに2回なっており、イスラエルに移住後は国内にヴェロドロームを建設したり、自転車に限らず様々なスポーツ選手を育成するセンターを立ち上げたりと精力的な活動に取り組んでいます。

スポーツウォッシング?いや、スポーツだよ

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イスラエルという政治的に複雑な背景を持つ国家をチーム名に背負っていることもあり「スポーツウォッシング(国家がスポーツを利用して悪評判を洗い流すことの例え)」だという批判を受けることもあるという同チーム。しかし、そんな批判にアダムスはこう反論します。

In Tel Aviv we have a very large gay community and we have one of the biggest gay pride parades in the world, and people say that’s ‘pinkwashing’. They say the Giro was sportswashing. And I say everything we do is washing if you choose to view it that way. We sent a project to the Moon, did you know that? I was one of the partners in that. So what was that? Moonwashing?
We’re not trying to cover up our sins and wash them away with something. Actually we’re just being ourselves and it’s not washing, it’s sport. It’s not called sportwashing, it’s called sport.

テルアビブ(イスラエルの中心都市)には世界最大級のゲイコミュニティがあって、街中をパレードをすることがあるんだけど、人々はそれを見て「ピンクウォッシング」というんだ。彼らはジロ招致もスポーツウォッシングだという。もしそういう見方をしようと決めれば、すべてはウォッシングになるんだ。月に我々は人を送っただろう?あれは何だったんだろうか?ムーンウォッシングかな。
罪を隠そうとして、他の何かで洗い流そうとしているわけじゃない。私たちはありのままでいるだけで、それはウォッシングでも何でもない。スポーツだ。スポーツウォッシングとは呼ばない。スポーツと呼ぶ。

もちろん、必要以上にこんがらがってしまった政治的関係が、チーム運営に影を落とすことも。2017年末から2年契約で加入したばかりだったトルコのスター選手アフメト・オルケンは、2018年シーズン開幕を前に、トルコとイスラエルの政治的関係の悪化を理由にレースを走らずしてチームを去っています。

I love sports as a fan, and I believe in it as a bridge-builder between diverse people
私はファンとしてスポーツが大好きで、多様な人々をつなげる架け橋としてのスポーツの役割を信じている。

富豪らしく、決して前向きな姿勢を崩さない資金提供者のアダムス。そして、語り口から非常にスマートな印象を受け、おそらく現場を取り仕切っている創設メンバーのRan Margaliot。この二人にフルームが加わるとどんな化学反応が起こるのか。小さな国から生まれたビッグチームの動向から目が離せません。

おもひでぽろぽろ

エルサレムの「岩のドーム」

ふと学生の時にイスラエルに行った時の写真をみ返したのですが、たいした写真なくて苦笑い。そもそも全部で30枚くらいしか撮っておらず、そのうち10枚くらいが夕焼けをバックに太陽を掌に載せてドラゴンボールの元気玉っぽく撮るという海岸ならどこでもできるやつ(もちろん全部低クオリティ)。中2。。。

テルアビブの筆おじさん

テルアビブなどはほぼ街並みが現代ヨーロッパ。政治的にはセンシティブな地域ですが、それさえなければ相当過ごしやすく「住んでみたいなぁ」と感じたのを覚えています。政治とか歴史を学んで、そうした側面から世界を見るのも大事だけど、どんな場所でも普通の人たちが迷ったり楽しんだりしながら日常を送っているんだという当たり前のことも忘れちゃいけないなぁと。そんなことも思ったっけ。

参考ソース

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