モビスター選手流出は大物代理人の影響力?プロ自転車選手のエージェントの世界
Photo by Douglasfugazi on Wikimedia Commons

だいぶ昔のようにも感じますが、昨年の移籍市場を騒がした大きな一つのトピックが、ジロ覇者カラパスのモビスターからイネオスへの移籍。

この契約を仲介したのが、Giuseppe Acquadro(ジュゼッペ・アクアドロ)というプロ自転車選手エージェント(代理人)界の大物でした。カラパス離脱を機に同氏を代理人に持つキンタナやアマドールが矢継ぎ早にチームを去り、ランダの移籍と相まって大幅な戦力ダウンを余儀なくされたモビスター。その舞台裏にいた代理人という存在と、彼らが移籍市場に持つ影響力についてまとめてみました。

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嘘か誠か。アクアドロ氏の影響力

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そもそも、アクアドロ氏はモビスターの選手に限らず、イタリア人でありながら多くの南米出身選手をクライアントにもちます。

クライアントリストには、ベルナル、キンタナ、カラパス、ソーサ、ウランなど錚々たる顔ぶれが並び、スペイン誌EL PAISによれば、イネオスとアスタナへの選手獲得に最も貢献している代理人もアクアドロ氏です。

そんな同氏には、影響力の大きさを訝しむ声が少なからずあり、①カラパスのクリテリウム出場を知っていながらモビスターに情報共有しなかった(結果カラパスは怪我をしてヴェルタ欠場)②イネオスのヴェルタ出場選手セレクションに口を出した、などの噂がたっています。こうした報道が本当かどうかは置いておいて、選手の移籍市場において代理人もしくはエージェント会社の役割が年々大きくなっている、もしくはそれを懸念する関係者が増えている、というのは間違いなさそうです。

では、いかに自転車界で代理人の仕組みは浸透してきたのでしょうか?

まだまだ浅い自転車界のエージェント史

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(クリスティアーノ・ロナウドと大物代理人ジョルジュ・メンデス)

1980年代には1チーム内にせいぜい2人ほどしか代理人をつける選手はいませんでしたが、現在は殆どの選手に代理人がいるとされています。あのアームストロングが弁護士兼MBAホルダーの代理人、Bill Stapletonを通して多くの報酬を得ていたこともその促進につながったとVelonews記事内では指摘。

こうした大きな流れを受けて、UCIは2012年から代理人に対して独自の資格取得を義務付けました。ただし、受験料を払って試験を受ければいいだけのようでして、さらに弁護士や親戚などには例外措置が取られるとのこと。

NBAやNFLといった世界では、よりより条件を獲得してくれる高度な専門職として代理人が選手に雇用されていますが、自転車の世界では家族や親戚が指名されたり、その他コネクションを通じて代理人になる人が多いんだとか。

「Most cycling agents don't really add much value(ほとんどの自転車選手の代理人はたいした価値を提供してない)」(談・元代理人)と力量不足を指摘する声がある一方で、影響力を持ちすぎた大物代理人へは懸念も集まります。

大物代理人は善か悪か?

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2010年、頭角を現し始めた若きリッチー・ポートをわずか2シーズンでスカイに放出せざるを得なくなった当時サクソバンク監督のビャルヌ・リースは、大物代理人アンドリュー・マックエイド氏についてこう語ったといいます。

The agents are running around and shopping with all sorts or teams, and it’s not just us who have these problems. It must stop now, it’s unacceptable. The agents bring ideas into the minds of young riders by putting figures in their minds that are completely unrealistic.
拙訳:エージェントたちはそこら中のチームで買い物をしていて、私たちだけの問題ではなくなっている。もう許容できないし、止めなければならない。代理人たちは若い選手たちの頭の中に非現実的なアイディアや数字を放り込む。

このリースの言葉は、有望な選手を引き抜かれたことに対してのいわゆる愚痴でしょう。マックエイド氏にしてみれば、クライアントである選手のためにそうしたんだ、というところでしょう。お互いにある程度は理解できる主張です。

しかし、この「クライアントのため」という思考は、当の代理人が数多くのクライアントを持つ場合にはデリケートな問題になってきます。

たとえば元プロ選手のフィル・ガイモンは、出版した自伝の中でマックエイド氏について痛烈に批判。そのきっかけとなったのがガーミンとの契約で起こったいざこざです。

If an agent has more than a few clients, he’s deciding which teams to sell them to, so Andrew wasn’t really working for anyone but himself.
拙訳:一人の代理人が何人ものクライアントを抱えていれば、彼がどのチームに誰を売るか決めることになる。そうすると、アンドリューは誰のためでもなく彼自身のために働いていたという事になるんだ。

ガーミンの募集枠一人に対して、マックエイドは一度ガイモンの契約を取り付けたのものの、その後手のひらを返して、同じく同氏のクライアントであるジョー・ドンブロウスキー(現UAE所属)をガーミンと契約させたというのです。

この批判に対して、同氏は「単純にチームが必要としたのがガイモンではなくドンブロウスキーだった」「彼は我々との関係で自分のチャンスの門が広がっていたことを都合よく忘れている」と反論しています。

代理人、チーム、選手の理想の関係とは

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Our small client roll helps us to prevent conflicts of interest<中略>If a team asks me for a young sprinter and I represent five, how can I decide who to put forward?
クライアントの数を抑えることは利益相反を防いでくれる<中略>もしあるチームが一人の若いスプリンターを探していて、私が5人の候補者を抱えていたら、どうやって誰を推すか決めればいい?

マックエイド氏とガイモンが起こしたような衝突を避けるため、世界王者マッズ・ペデルセンの代理人ソマー氏のエージェント会社は意図的にクライアントの選手数を絞り、さらに同じようなスキルセット(クライマー/スプリンター、ベテラン/若手、、、など)を持った選手をあまり抱えないようにしています。とても真っ当で人道的な方針のように聞こえますが、一方で、(チームが出す条件に満足する選手のなかで)一番強い選手を推せばいいだけではないかというドライな考え方もできます。

一体、選手はどのように代理人を選べばいいのでしょうか。

いわゆる超人クラスの選手達はあまり考えすぎる必要はないかもしれません。彼らには代理人がいなくともオファーは山ほど集まるでしょうし、ある程度は希望を聞いてもらえるでしょう。実績のある代理人をつけておけば、より良い条件は約束されたようなものです。

それ以外の選手達にとっては代理人を誰にするかというのは大事なポイントになりそうです。大きなところと契約してチャンスの門を広げるのか、小さなところと契約して長い目で信頼関係をまず築くのか。それとも家族や、すでに信頼関係を築いた人に頼むのか。そうした決断の一つ一つが、選手のキャリア、選手生活を大きく変えていくのではないかと。

そして、チームはどのように代理人と付き合っていけばいいのでしょうか。

モビスターのマネジメントと選手代理人との関係悪化が戦力放出につながったというこの一連の報道が正しいのであれば、チームとエージェントはつかず離れずの適切な距離感を保つべきで、チームは一人のエージェントだけに頼るべきではない、という教訓がみえてきます。この苦境をきっかけに、モビスターがもっと(いろんな意味で)面白いチームになっていくことを楽しみにしたいな、と思います。

参考ソース

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