続・UCI『2020年改革』解説。上位プロコンチネンタルチームが最も得をする?

さて、前回記事「UCIの『2020年改革』とは?NIPPO・ヴィーニファンティーニの運営会社解散のきっかけとなった改革はロードレースをどう変えるのか。」の続きです。

まずは前回挙げ忘れたポイントについて。ソースはUCIの6月特別号ニュースレターほか。その後この変化がなにをもたらすかについて考えてみました。

スポンサーリンク

変化4:チーム所属選手の最少人数が変わる。

全3カテゴリーで、チーム所属最少人数が増加します。ワールドチームは23⇨27の4UP、プロコンチネンタルチームは15⇨20の4UP。そしてコンチネンタルチームは8⇨10の2UPです。ヨーロッパ外のプロコンチネンタルチームには段階的な処置が取られるそうです。

変化5:最低賃金が増える(女子ワールドチームに最低賃金が設定される)

 

緩やかに上がり続ける物価とは裏腹に、ずっと同じままだった選手の「最低賃金」がようやく上昇しました。今年、来年と2%ずつアップして、2020年にはワールドチームのネオプロ(新人)で32,400ユーロ(384万円)、その他で40,045ユーロ(475万円)となります。その他もろもろ必要経費や手当、ボーナスなどもでます。プロチームの出費というのはほぼ人件費ですから、当然影響は出てくるでしょう。

チームマネージャーのペロージが2020年の活動を断念した理由の1つは予算の確保です。プロコンチネンタルチームの登録におけるレギュレーションが変更になったことが大きな要因でした。まず、登録選手の最低人数は16人から20人に増加したうえで、一人当たりの最低年俸も上がります。そしてチームは3チームが稼働できる体制を必ず整えなければならず、それに伴ってチームカーや機材、スタッフも当然増えます。最終的には人件費が膨れ上がる見積もりです。

現在、UCIルールで定められているプロコンチネンタルチームの選手の最低年俸は500~600万円ほど、チームに2人くらいいるエースが年俸2000万円程でしょうか(コフィディスなど大型チームを除く)。ペロージの様なチーム運営会社は年間トータル約3億5000万程を多くのスポンサーから集めて運営している現状ですが、UCIが示唆している登録規定では約5億5000万円は必要と見込まれています。

 

それから少し話題はそれますが、実はいままで女子ワールドチームに最低賃金について基準がありませんでした。それがようやく制定されることになったのです。段階的に上げて2023年にはプロコンチネンタルチームと同水準となるそうです。

改革は何をもたらすのか?

で、結局この改革はどんな変化をもたらすのでしょうか。

誤解をおそれず一言で言えば「あまり変わらない」でしょう。こんだけ書いといてなんだそれは!という感じかもしれませんが、このスポーツのビジネスモデルに革新をもたらすわけでもないし、「全体像で見れば」ちょっとレースやチームの肩書が変わっただけ、という側面が大きいのではないかな、と。

でも、引きでみたらあんま変わってないけど、寄りでみたら結構大きな変化だったというのはよくあること。ということで考えてみました。

チーム運営陣からみたら…?

Embed from Getty Images
INEOSをはじめとする資金力が豊富でお金払って良い選手も揃えているようなチームは、最低賃金の上昇なんてほとんど影響受けないでしょうし、出るレースも変わらないでしょう。

最も大きな変更点の一つである「上位2〜3プロコンチネンタルチームを招待しなければならない」というルールは、ワンティなどの上位プロコンチネンタルチームチームにとっては朗報です。なぜならビッグレース出場の機会が増えるから。そしてワールドチームのように強制的に出場させられるケースもほとんどありません。今まで通り出たいレースだけ出ることができるうえ、全体的にビッグレース出場のオプションが増える。もしかしたらこのポジション、一番オイシイのではと。

(※大門監督のインタビューだと、例えばトタルやアルケアが上位だったらワールドツアーやグランツール全部でなきゃいけないみたいな言い方になってますが、あくまで"絶対招待される"というだけであって出場辞退は可能なのでその点は心配無用かと思います。ただスポンサーが出れるなら出したがる可能性もありますが…。)

一方で、NIPPOのように結果よりも育成を理念としており成績も上位プロコンチネンタルチームに劣るチームは、今まで主催者枠で出場できていたジロなどのビッグレースの出場機会を失ってしまうかもしれず、先行き不透明な状態になったといえるでしょう。

コンチネンタルチームにとっては現状とあまり変わらないでしょう。最低賃金あがってすこし資金繰りが難しくなるくらい?

選手からみたら…?

Embed from Getty Images
引く手あまたのトップ選手にとっては、あまり変わらないでしょう。もしかしたらチーム解散等の憂き目に合う選手がいるかもしれません。

上位2〜3のプロコンチネンタルチームで走っている選手にとってはどうでしょうか。ビッグレースで走る機会が増え、しかも結構自由に選べたりするので、わざわざワールドチームに所属せずにこちらで走ることを選択するトップ選手もでてくるかもしれません。

下位プロコンチネンタルチームで走っている選手は、ビッグレースの出場機会が減ってしまうでしょう。結果として強い選手はビッグレースへの出場機会をもとめて強いチームへ、下位チームにとどまる選手はいつまでも抜け出せずチームも強くなれない、そんな2極化が進むかもしれません。

まだプロコンチネンタルチームに入れていない選手にとっては、とにかく成績出してアピールして上のカテゴリーを目指すというスタンスが変わることはないでしょう。

レース主催者からみたら…?

Embed from Getty Images
新たなカテゴリーに適応するのが大変かもしれません。

運営の事情をあまり知らないのでなんとも言えないのですが、1クラス・HCクラスの主催者にとっては「プロシリーズ」に入れるか否かは非常に重要なんではないかと思います。どんな基準で選ばれるんでしょう。

ワールドツアーの主催者にとっては「まあ勝手にしてくれよ」といったところでしょうか…とも思ったのですが、意外と影響を受けそうです。

どこで?というと主催者招待枠が減ってしまうこと。大会ごとにオリジナリティあふれる出場チームのラインナップを揃えること(イタリアのレースだからイタリアのチームばかり招待して若手に経験を積ませるためのレースにしたり、とか)が比較的むずかしく、どのレースもおなじような顔ぶれになってしまう恐れがありますね。

ファンから見たら…?

Embed from Getty Images
批評家気取りファンみたいな人たち(例:わたし←)からみたら、もの申したいことが出てくるかもしれません。でも、この改革でレース展開が大きく変わるというとかそういう事はないような気がします。どちらかというと仕組みとかシステムの改革のはなしなので。

まあ基本的には、今まで変わらず「推しチーム」と「推し選手」を応援するというスタンスに変わりはないのではないでしょうか。応援がスポーツの醍醐味です。選手はいつだって応援に背中を押されています。そして応援する人が多ければ多いほど、スポーツは盛り上がっていきます。

頭使いすぎず、感覚で素直に楽しみましょう。「おいここでこの動きはダメだろー!」とか「この選手が来年あたり来る(ニヤリ)」とか無責任に話しながら、楽しんじゃいましょう。スポーツは最高のエンタメ。

最後に。

Embed from Getty Images
「大きくは変わらない」といいつつも、女子チームの最低賃金がルール化されたことはかなり大きな一歩だと思います。

(法律上はどうだったかわかりませんが)世界トップアスリートたちの賃金が「ゼロ」ということが理論上はあり得るという状態から、一気に男子と同レベルまで上昇したのですから。

どうしても男女差が目立つこのスポーツではありますが、こうしてどんどん差が埋まっていってほしい。そう思います。

靴下事件」をはじめ、何かと叩かれることも多いUCI。でも、変わり続けることでしか前には進めないんだから、UCIにはどんだけ叩かれても変わり続けていってほしい。権力が集まるところはいつだってバッシングの対象だけど、権力が集まるところはいつだって結局大事な場所だから。

最後は、大門監督の非常に前向きな心意義で締めたいと思います。では。

 ですから、個人的にはNIPPOがそういった渦に関わり新たなチームが誕生する事も大いに期待しています。先にも述べましたが、NIPPOが自転車業界から撤退することは現時点では非常に考えにくい。2020年から新たに設定される「プロシリーズ」等 まだまだ蓋を開けてみないと解らない要因が数多く水面下に潜んでる現状では、「先ずはこのカテゴリーに留まって様子を見てみたい」のが正しく「本音」です。
…<中略>…
この5年の間、プロコンチネンタルチームでなければ出場できないレースや環境を日本人の若手選手、スタッフに提供し経験させる事が出来ました。それが糧となって伸びた選手もいるでしょう。日本人選手の実力が伸びる環境を第一に自分も2014年まで毎年の様にNIPPOと共にチームの変革を支えて来た様に、時代のニーズにも合わせチームの運営に関わって行きたいと考えています。

参考ソース

スポンサーリンク

Twitterでもタイムリーにつぶやいてます